糖尿病

 どなたも糖尿病という病気について一度は耳にされたことがあると思います。非常に有名な病気ですが、どういった病気なのかは意外と知られていないようです。

 糖尿病と聞くと、目が見えなくなるとか足が腐って切り落としたなどの怖いイメージを強く持っていらっしゃる方もいらっしゃいます。確かに自覚症状がないため、糖尿病を放置した結果そのような状態に至る方もいらっしゃいますが、近年は病気について認知されるようになり治療を受けられる方が増え、合併症の割合も減少してきています。しかし現在でも成人の失明の2番目に多い原因であり、血液透析の新規導入の原因の1位です。また血管障害による脳卒中や狭心症などの大きな原因となっています。

糖尿病とは

 糖尿病は血糖値が高くなる病気です。正確に表現すると、「インスリン作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群」 です。

 1型糖尿病ではインスリンを作っている膵臓の細胞が破壊されることが原因です。2型糖尿病ではインスリン分泌低下やインスリン抵抗性をきたす素因を含む複数の遺伝因子に過食や運動不足、肥満、ストレスなどの環境因子および加齢が加わって発症すると考えられています。

糖尿病の診断

 糖尿病は、糖尿病型の高血糖を別の日に2回確認することにより診断されます。ただし長期間の血糖コントロールの指標であるHbA1cが6.5%以上の場合や典型的な糖尿病の症状や所見(口渇・多飲・多尿・体重減少や糖尿病網膜症)がある場合は高血糖が1回確認できれば診断することができます。

(糖尿病型の高血糖とは①早朝空腹時血糖値126㎎/dL以上 ②75gOGTTで2時間値200 ㎎/dL以上 ③随時血糖値が200 ㎎/dL以上のいずれかをいいます)

糖尿病の検査

血糖値

 糖尿病の検査は何といっても血糖値です。血糖値は空腹時には低下し、食後は増大します。このため正確な評価をするためには検査をするタイミングも重要です。通常は前日の晩御飯を食べた後10時間以上絶食の状態で測定した血糖値を用います(空腹時血糖値)。

 空腹時血糖値の正常範囲は110㎎/dl未満、なお126㎎/dl以上は糖尿病型、いずれにも入らないものは境界型とします。

 食事の時間に関係なく測定した随時血糖値でも200㎎/dlを超えるものは糖尿病型になります。

経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)

 早朝空腹時にブドウ糖75g相当の検査飲料を飲んでいただき、その前と30分後・1時間後・2時間後に血液検査を行って糖尿病の診断やインスリンの分泌力を調べる検査です。 

HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)

 Hb(ヘモグロビン)とは血液の中の赤血球の中に存在する蛋白質で酸素を全身に送る働きをしています。高血糖の状態が続くといろいろなところに糖がべたべたくっつくようになるのでHbにも当然糖がくっつきます。このように余分な糖がくっついたHbの割合を表すのがHbA1cです。このためHbA1cは現在の糖尿病の状態ではなくおおむね1から2か月前の血糖のコントロールを反映するといわれています。

 HbA1cの正常値は4.7~6.2%です。

糖尿病治療の目標

 糖尿病を放置すると血管合併症をはじめとするさまざまな合併症を引き起こし健康寿命の短縮をきたします。糖尿病治療の目標は、健康な人と変わらない日常生活の質の維持と寿命の確保です。

 患者さんごとに状態が異なるため年齢と合併症に応じて適切な目標値を設定することが必要ですが、細小血管障害の発症予防や進展の抑制にはHbA1c7.0%未満を目指すよう心掛けなければいけません。

(血糖正常化を目指す際の目標は6.0未満、治療強化が困難な際の目標は8.0%未満となります)

糖尿病治療について

2型糖尿病・・・・インスリン非依存状態では自覚症状が乏しいため通院が中断しがちになるため注意が必要です。

 治療の基本はまず食事・運動療法です。特に1日の摂取カロリーが多い方や甘いものが好きな方は、摂取量とバランスの調節が必要です。運動療法は血糖値を下げるだけでなく体重減少や心肺機能の向上、生活の質の改善にも有効です。食事・運動療法で十分な改善が得られなければ薬物(経口・注射)療法が必要になります。

1型糖尿病・・・・1型糖尿病の患者さんでも適切な食事運動療法が必要ですが、原則としてインスリン注射による治療が必要です。

食事療法

 食事の時に気を付けることは、食べすぎないようにすること(食事の量と内容)、規則正しい食生活をすること(1日3回、寝る前には食べない)、急いで食べない(早食いをしない)ことです。

 食事の量については、自分の適正なエネルギー摂取量を知ることが重要です。治療開始時の目安は 

エネルギー摂取量 = 標準体重 × 身体活動量 で計算します。

        標準体重 = 身長(m)×身長(m)×22

        身体活動量  デスクワークの方 25 - 30 kcal/kg (標準体重)

                立ち仕事の方    30 - 35 kcal/kg (標準体重)

                力仕事の方     35 ~   kcal/kg (標準体重)

 食事の内容については必要なエネルギーの50-60%を炭水化物、タンパク質は20%まで、残りを脂質とすることが一般的です。

 特に肥満症の方については3-6か月で体重にして3%の減量を目指しましょう。高度肥満症の方は体重にして5-10%の減量を目指しましょう。

 その他、アルコールの摂取は1日25gまでに止めましょう。肝障害や合併症がある方については禁酒が必要です。また食物繊維をたくさん摂取(1日20g以上)するようにしましょう。また高血圧を合併している場合は食塩摂取量は6g未満が推奨されています。

運動療法

 運動療法は大きく有酸素運動とレジスタンス運動に分けられます。レジスタンス運動とはいわゆる"筋トレ"に相当します。有酸素運動は継続して行うことにより、減量やインスリンの感受性を増大させ血糖値の改善に有用です。レジスタンス運動は筋肉量を増やすことにより基礎代謝を増やし、減量や血糖値の改善に有用です。水中歩行は有酸素運動とレジスタンス運動の両方の内容を含み肥満を合併する糖尿病の患者さんにも有用な運動です。

 有酸素運動の時の強度は50歳未満では脈拍が1分間に100-120回程度(50歳以上では1分間に100回未満)とするのが安全です。頻度は週3回以上、1回あたり30-60分程度行うとよいでしょう。さらに週2-3回レジスタンス運動を一緒に行えばより効果的です。

 ちなみに運動で消費するカロリーは多くありません「運動を頑張った分食事や間食を増やせる」と考えることは誤りです。食事療法と運動療法をうまく併用していくことが大切です。

運動療法は体に負荷がかかるため注意が必要なことがあります。

  • 低血糖の危険があるとき
  • 膝や腰など整形外科的疾患があるとき
  • 心疾患や肺疾患があり運動制限が必要なとき

このような時は運動療法の内容については主治医とよく相談しましょう

薬物療法

経口薬療法

経口薬は大きくインスリン抵抗性改善薬、インスリン分泌促進薬、糖吸収・排泄調節薬の大きく3つに分けられます。

  • インスリン抵抗性改善薬・・・ビグアナイド薬(メトホルミン等)、チアゾリジン薬(ピオグリタゾン等)
  • インスリン分泌促進薬・・・SU薬(グリメピリド・グリクラジド等)、グリニド薬(ナテグリニド等)、DPP-4阻害薬(ジャヌビア等)
  • 糖吸収・排泄調節薬・・・α-グルコシダーゼ阻害薬(アカルボース等)、SGLT2阻害剤(スーグラ等)

注射薬療法

注射薬にはインスリン薬およびGLP-1受容体作動薬があります。

 インスリンは本来膵臓のβ細胞から分泌されるホルモンで、唯一血糖値を直接低下させる作用を持っています。GLP-1作動薬は血糖依存的にインスリン分泌促進作用を有するほか、消化管に対する作用や食欲抑制作用があります。

糖尿病合併症について

糖尿病網膜症
 糖尿病の慢性の高血糖により目の細小血管が障害されることによって起こります。通常は、単純糖尿病網膜症 ⇒ 増殖前糖尿病網膜症 ⇒ 増殖糖尿病網膜症 の順に進行し、新生血管の発生や眼底出血、網膜剥離を起こします。その他にも、糖尿病は眼底に浮腫や虚血・萎縮性変化を起こします。黄班部という視神経が密集している部位にこれらの変化が起こると糖尿病黄班症とよび著しい視力低下の原因となります。
 糖尿病網膜症の治療の基本は血糖コントロールですが、血糖コントロールのみでは新生血管を止めることはできません。ある程度進行した糖尿病網膜症では眼科医によるレーザー光凝固や硝子体手術が行われます。また最近では血管新生を抑制する抗VEGF抗体というお薬の眼内投与が非常に有効であることが分かってきました。
糖尿病腎症
 糖尿病の慢性の高血糖により、主に腎臓の糸球体(血液をろ過して尿を作っているところ)に障害をきたすことにより腎臓の働きが悪くなります。末期腎不全になると腎臓の機能が失われ尿毒症をきたすことから透析療法が必要となります。糖尿病により腎臓に障害が起こると、まず尿中にアルブミンという蛋白が認められるようになります(微量アルブミン尿)この時点では通常の検査ではまだ尿蛋白は検出されません。さらに進行すると通常の蛋白が検出されるようになり、さらに進行すると血液検査(クレアチニン/尿素窒素)も上昇が認められるようになります。
糖尿病神経障害
 神経障害は糖尿病3大合併症の中で最も早く発現する合併症で自覚症状やアキレス腱反射、振動覚の検査などにより診断します。主に四肢末端からしびれやなどで始まる感覚障害、立ちくらみや便通障害などに関係する自律神経障害などの多発性神経障害が有名ですが、特定の末梢神経が障害される単神経障害(動眼神経麻痺など)もあります。比較的早期の神経障害については血糖コントロールにより改善することもありますが、長期にわたり重症な状態が続いている場合は治療に難渋することも少なくありません。
大血管障害
 糖尿病は脳血管障害や冠動脈(心臓の血管)の危険因子として知られています。大血管障害は命にかかわることも多く、そうでなくても後遺症を残し生活の質が低下する原因になります。
その他
 糖尿病は足の血管の障害(壊疽など)や感染症などの危険因子となることが知られています。